「OCD推定システムの開発」

松戸整形外科病院 亀山顕太郎

小中学生のためのOCD推定システムの開発に関して説明します。

OCD推定システムとは、問診や理学所見を行う事でOCDの存在確率が分かるというシステムです。

このシステムの目的は、

「このようなシステムを通して現場にOCDを知ってもらうこと、OCDを早期発見する意識を高めることにあります!」

 

ただ、最終的には簡単にスクリーニングできるシステムに成長させることで、多くの選手を救えたらと思っております。

 

離断性骨軟骨炎(以下OCD)は、放っておくと野球ができなくなるばかりか、日常生活にも支障を来す障害です。

しかし透亮期(初期)で発見できれば、リハビリと安静で保存的に90%が改善できます。

キーワードは早期発見です!

しかし、初期には痛みがないことが多く早期発見が困難なのが現状です。

 

ただ、エコーを使った肘検診で早期発見することが可能になりました。

エコー検査は、現場で早期発見ができるというメリットは大きいのですが、

高価な機器が必要であること、専門医が評価しなくてはいけないことなど、負担も大きいのも現状です。

少年野球選手は、全国に数十万人いると言われております。千葉だけでも1万人以上の少年野球選手が・・・

現場に出られる医師もPTも限られているので、今のままでは限られた選手しか救えないと考えました。

システムの実際です。

ここで、システムの実際をお見せいたします。

このシステムはエクセルをベースに作っております。

 

このように必要項目を全て入力すると、自動的に計算されて・・・

このようなOCDの存在確率が分かる!というシステムです。

次は、開発方法です。

今回の開発には、ベイズ理論を用いました。

このベイズ理論、最近着目され、爆発的に応用されだした新しい統計学です。

多くのメールから迷惑メールを抽出する原理で・・・

多くの選手の中から、OCDの疑いのある選手を抽出することができれば!

と思っております。

 

「ぴたっと予測する」のは難しいけど、「エコーするべき選手を絞り込む」ことはできるのではないかと考えております。

いくつかの問診と理学所見およびフォームチェックを行う事で、OCDの存在確率を提示し、選手の障害予防に対する意識を向上させられればと思っております。

今回、開発には、千葉県理学療法士会スポーツ健康増進支援部主催の投球障害予防教室に参加した選手221名のデータを用いました。

投球障害予防教室では、問診、理学所見、フォームチェックと同時にエコー検査を行いました。

エコー検査を行い、異常のあった選手は2次検診に進みます。

その中で、4名の選手にOCDの確定診断がつきました。

 

この4名に特徴的だった項目を抽出し、その項目からベイズ理論を用いて存在確率を求めました。

評価項目の一部です。

評価項目の一部です。

2次検診でOCDと診断された4名の選手に特徴的だった項目が・・・

 

「肘の既往があること」

「肩の既往がないこと」

「片足立ちが3秒間、安定してできない。」

「肘がまっすぐ伸ばせない」

「肘と肘をつけたまま、肘を鼻の高さまで上げられない」

「投球時に肘が下がっている」

 

の6つの項目でした。

気になる精度ですが・・・

 

感度100,特異度96.8,陽性的中率36.4,陰性的中率100.と高精度に推定が可能な結果になりました。

分かりづらいので図でイメージしてみます。

検診参加者が221名で、全員にエコー検査をおこないました。

その結果、4名にOCDの確定診断がつきました。

 

もし、今回作成したOCD推定システムでスクリーニングすると

11名がOCDの疑いがあるのでエコー検査を受け、そのうち4名にOCDの確定診断がついた選手がいるというイメージになります。

残りの210名は、検査をせずに経過観察となります。

 

今回は、n数が少ないので、あくまでもイメージです。

 

ただ、このようなシステムが確立すれば、OCDの疑いのある選手を優先的にエコー検査していくことで、より多くの選手を救えるのではないかと考えております。

今後の展望です。

今後は、より精度を上げるためにデータとアイデアの集積が必要になります。

 

このような研究は、一人のアイデアや一施設のデータで行うのではなく、色々な人たちのアイデアや色々な施設のデータを一つにまとめて行って行くことが重要になります。

 

こうすることで、より普遍的なフィジカルチェックから全国レベルの障害予防に発展すると考えます。

また、関わりのない項目は削除して、関わりのある項目を残す。

そこに新しい項目を追加して、再度検討していく。

 

このような流れを作ることで、良いチェック項目のみ残り、より精度の高いOCD推定システムになると考えます。

最後に現在の取り組みに関してです。

現在、共同研究の輪は拡がっております。

ここでの合い言葉は、「誰が良いではなく、何が良いかを統計を用いて明らかにしたい!」です。

まとめです。

問診、理学所見などをチェックし、ベイズ理論で解析することで、OCDの存在確率が分かるというシステムを作成しました。

今後は、皆さまからのアイデア、理学所見、データを共通のデータベースで解析することで、妥当性・普遍性が向上すると考えている。

そこで得られた知見は、OCD認知向上のため、OCD早期発見のために現場に還元し、また現場での効果を検証していく。そういう流れを繰り返し行う事で、よりよいシステムに向上すると考えております。

このシステムは、まだまだハイハイを始めたばかりの赤ちゃんと同じで、完璧なスクリーニングができるという訳ではありません。

まずは、このシステムを通して

「指導者・選手にOCDという疾患を知ってもらうこと」「OCDを早期発見する意識を高めること」を目的に現在は使用しております。

 

今後、皆さまからのアイデア・データが集まれば、よりよいシステムに成長していくと思います。